今回は、第一線で活躍する現役の消防士の方に、匿名を条件に、ゴミ屋敷火災の現場がいかに過酷で危険なものであるか、そのリアルな実情を語っていただきました。「私たちが『ゴミ屋敷火災』と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、『進入困難』と『延焼拡大の速さ』、そして『再燃のリスク』です。通常の火災とは、危険のレベルが全く異なります。まず、現場に到着して直面するのが、家の中に入れないという問題です。玄関はゴミで塞がれ、窓も内側から物で覆われている。破壊器具を使って無理やりこじ開けても、その先は天井まで続くゴミの壁です。足元は不安定で、いつ崩れてもおかしくない。一歩足を踏み入れた瞬間に、ゴミの山に埋もれてしまう危険と隣り合わせなのです。次に、火の回りが異常に速いこと。紙や衣類、プラスチックといった可燃物の塊ですから、一度火がつくと爆発的に燃え広がります。凄まじい熱量で、近づくことすら困難です。窓から放水しても、積まれたゴミが盾となって、なかなか火元に水が届きません。表面の火は消えても、ゴミの山の内部で火種がくすぶり続けているのです。これが、三つ目の危険である『再燃』に繋がります。鎮火したと思って引き揚げた後、数時間後に再び通報があり、現場に戻るとまた火の手が上がっている、というケースも少なくありません。ゴミの山を完全に崩し、内部の火種を一つ一つ確認しながら消火しなければならないため、通常の火災に比べて、鎮火までに何倍もの時間と人員、そして水を要します。そして何より、心理的な負担も大きいですね。家の中に要救助者がいる可能性を常に考えながら活動しますが、ゴミの山の中での捜索は困難を極めます。救えるはずの命が、ゴミのせいで救えなかったとしたら…。その無力感は、計り知れません。ゴミ屋敷は、住んでいる方だけの問題ではないのです。私たちの活動を困難にし、近隣への延焼リスクを高め、地域全体の安全を脅かす存在であるということを、もっと多くの方に知っていただきたいと思います」。