ゴミ屋敷問題の根源にある最も重要な心理的要因の一つとして、近年、精神医学の分野で注目されているのが「ためこみ症(Hoarding Disorder)」です。これは、かつては強迫性障害の一症状とされていましたが、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)において独立した診断基準を持つ疾患として位置づけられました。ためこみ症の患者は、物の入手量が多く、捨てることが非常に困難であるという特徴を持ちます。その背景には、物を手放すことに対する強い不安や苦痛があり、「いつか使うかもしれない」「もったいない」「思い出の品だから」といった思考が、物を手元に置き続ける強力な理由となります。論文では、このためこみ症がゴミ屋敷化の主要な要因であることが示されており、単なる片付けの苦手さとは異なる、専門的な治療が必要な精神疾患として認識されています。また、ためこみ症以外にも、うつ病、認知症、発達障害(ADHD、ASDなど)といった様々な精神疾患がゴミ屋敷化の背景にあることが、多くの研究で指摘されています。うつ病の場合、意欲の低下や判断力の鈍化により、ゴミ出しや片付けといった日常生活の基本的な行動が困難になります。認知症の高齢者では、物の価値判断が難しくなったり、ゴミを大切なものだと認識して捨てられなくなったりすることがあります。ADHDの人は、整理整頓の実行機能が働きにくく、衝動的に物を買ってしまう傾向があるため、物が溜まりやすくなります。これらの精神疾患は、当事者の生活の質を著しく低下させるだけでなく、ゴミ屋敷という物理的な環境をさらに悪化させる「負のスパイラル」を生み出します。学術論文は、ゴミ屋敷問題が個人の意識の問題だけでなく、根深い心理的要因や精神疾患と深く結びついていることを示唆しており、問題解決には精神医学的なアプローチが不可欠であることを強調しています。
ためこみ症診断と心理的要因