ゴミ屋敷が近隣住民にとって最も恐ろしい存在となる瞬間は、火災が発生したときです。山積みのゴミは極めて燃えやすく、一度出火すれば猛烈な勢いで燃え広がるだけでなく、消防隊の進入を拒み、消火活動を著しく困難にします。また、ゴミ屋敷に特有の「トラッキング現象(コンセントに溜まった埃からの発火)」のリスクも無視できません。こうした火災リスクに対して法的な権限を行使するのが消防法です。消防法第四条は、消防長または消防署長が、火災予防のために必要があるときは、特定の場所や物件に立ち入り、検査を行い、関係者に対して資料の提出や報告を求めることができると定めています。ゴミ屋敷の所有者が立ち入りを拒んだ場合でも、罰則規定を背景とした強い指導が行われます。さらに、消防法第三条では、火災の予防に致命的な支障があると認められる場合、物件の所有者等に対して、物件の除去や整理といった必要な措置を講じるよう命じることができると規定されています。ただし、この規定がゴミ屋敷の「全撤去」に直接適用されることは稀です。多くの場合、避難経路を確保するために玄関先や通路のゴミを一部撤去させるなど、火災予防に直接関わる範囲に限定されます。しかし、この消防法に基づく立入検査や指導は、自治体がゴミ屋敷対策条例を発動させるための重要な「エビデンス(証拠)」となります。消防による「危険である」という公的な判断は、行政がより強い措置を講じる際の強力な裏付けとなるからです。また、火災が発生してしまった場合、ゴミ屋敷の所有者は「失火法」の適用を受けますが、あまりにも無頓着なゴミの管理が「重過失」と見なされれば、失火法の適用から除外され、莫大な損害賠償責任(民法第七百九条)を直接負うことになります。ゴミ屋敷を法的に管理することは、単なる美観の問題ではなく、人命を守るための消防行政上の重大な責務でもあります。法は、個人の生活の中に介入することを極力避けるように作られていますが、人命という至高の価値が脅かされる火災リスクに対しては、断固とした立ち入りと指導の権限を与えているのです。
消防法が規定する火災予防とゴミ屋敷に対する立入検査の権限