汚部屋の人を観察すると、そこにあるモノの一つひとつに異常なまでの執着を見せるケースがあります。客観的に見れば明らかなゴミであっても、本人にとっては大切な思い出の象徴であったり、将来的に自分を救ってくれるかもしれない貴重な資源であったりします。これは精神医学において「ため込み症(ホーディング)」と呼ばれる疾患の領域であり、汚部屋の人の中でも特に解決が難しいタイプです。彼らの多くは、人との繋がりにおいて深い孤独感や拒絶を経験しており、その心の隙間を埋めるためにモノを収集し、手放すことを拒みます。モノは人を裏切りませんし、批判もせず、ただそこにいて自分を囲んでくれます。彼らにとってモノを捨てることは、自分の身体の一部を切り取られるような、あるいは大切な家族を捨てるような、耐え難い苦痛を伴う「喪失体験」なのです。汚部屋の人は、モノの山に囲まれることで、一時的な安全地帯を作り出していますが、皮肉なことにその壁が厚くなればなるほど、現実の人間関係からはさらに遠ざかり、孤独は深まっていきます。モノの多さは、彼らの脳内における情報の洪水でもあります。一つひとつのモノに対する情報の処理が細かすぎるため、「これはいつか使える」「これは誰かからもらったものだ」という微細な価値をすべて拾い上げてしまい、捨てる理由を見つけることができなくなるのです。この「価値の過大評価」と「決断の困難」が組み合わさることで、部屋は物理的な限界を超えて膨れ上がります。ため込み症の傾向がある汚部屋の人を支援する際、無理やりモノを捨てることは逆効果であり、さらなる精神的なトラウマを与え、リバウンドを加速させます。解決には、まずモノに対する歪んだ信念を解きほぐす認知行動療法や、孤独感を和らげるための社会的な繋がりを再構築することが不可欠です。モノに頼らなくても自分は安全であり、価値のある存在なのだという確信を、時間をかけて育てていくプロセスが求められます。汚部屋の人は、モノを溜めることで自分の崩れそうなアイデンティティを必死に守ろうとしているのであり、その痛みを理解することからしか真の解決は始まらないのです。