行政代執行法は、行政上の義務が履行されない場合に、行政庁自ら、または第三者にこれを行わせ、その費用を義務者から徴収することを認めた法律です。ゴミ屋敷対策において「伝家の宝刀」とも呼ばれるこの行政代執行は、所有者の財産権を根底から覆す極めて強力な行政処分であるため、その発動には厳格な法的要件が課せられています。まず、条例に基づく撤去命令が確定し、かつその履行期限が経過していることが前提となります。次に、その不履行を放置することが「著しく公益に反する」と認められる必要があります。この「公益に反する」の解釈には、火災発生時の延焼リスク、倒壊の危険性、深刻な不衛生環境による周辺住民への健康被害などが含まれます。法的手続きとしては、まず「戒告」が行われ、相当の期限内に片付けなければ代執行を行う旨が文書で通知されます。それでも履行されない場合、代執行を行う日時や責任者を記した「代執行令書」が送達されます。執行当日には、職員や委託業者が敷地内に立ち入り、法的な強制力をもってゴミを運び出します。このとき、単にゴミを捨てるだけでなく、価値があると思われる物品については、民法の事務管理や遺失物法の考え方を準用しながら慎重に仕分け・保管が行われます。そして、執行後に最も大きな問題となるのが「費用の徴収」です。行政代執行に要した人件費、運搬費、処分費は、行政代執行法第五条および第六条に基づき、すべて義務者から徴収されます。この請求は税金の滞納処分と同じ手続きで強制的に行われるため、支払われない場合には不動産の差し押さえや給与の差し押さえが実行されることもあります。しかし、現実的にはゴミ屋敷の所有者が多額の費用を支払えるケースは少なく、自治体が一時的に多額の公金を立て替え、回収が困難になるという財政上の課題も抱えています。この費用の回収可能性という実務的な問題が、自治体に行政代執行を躊躇させる一因となっている側面は否定できません。それでも、地域の安全と秩序を回復するために法が与えたこの強力な権限は、ゴミ屋敷問題における最後の砦として、その重要性を増し続けています。